更年期障害とは
閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を「更年期」とよびます。
この期間に現れる様々な症状の中で、他の病気に起因しないものを「更年期症状」とし、その中でも特に症状が重く、日常生活に影響を与える状態を「更年期障害」といいます。
こんな症状や不調はありませんか?
更年期障害の症状は、大きく「自律神経症状」「精神的症状」「身体的症状」の3種類に分けられます。
- 自律神経症状
- ホットフラッシュ:突然の熱感や発汗、特に顔や上半身に感じることが多い。
- 冷え性:手足が冷たく感じることが増える。
- 動悸:心拍数が急に上がることがある。
- 不眠:寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めることが増える。
- 疲労感:体がだるく感じることが多くなる。
- 精神的症状
- 気分の変動:イライラや不安感、抑うつ気分が現れることがある。
- 集中力の低下:物事に集中しづらくなることがある。
- 記憶力の低下:短期記憶が悪くなることがある。
- 感情が不安定:些細なことで涙が出たり、感情が高ぶることがある。
- 身体的症状
- 月経不順:月経周期が不規則になったり、出血量が変化することがある。
- 関節痛や筋肉痛:関節や筋肉に痛みを感じることが増える。
- 皮膚の変化:乾燥やかゆみ、しわの増加などがみられることがある。
- 性機能の変化:性欲の低下や、性交時の痛み、膣の乾燥感が生じることがある。
更年期障害の原因
更年期障害の主な要因は、女性ホルモンであるエストロゲンが大きく変動しながら減少していくことです。これに加えて加齢に伴う身体的要因、育った環境や性格に関連する心理的要因、さらには職場や家庭内の人間関係といった社会的要因が複雑に絡み合うことで、この障害が発症すると考えられています。
当院での治療のアプローチ
1.ホルモン補充療法(HRT)
更年期障害の主な要因はエストロゲンの変動と減少にあるため、少量のエストロゲンを補充する治療法のホルモン補充療法(HRT)が実施されます。
HRTは、ほてりやのぼせ、ホットフラッシュ、発汗など、血管の拡張や放熱に関連する症状に特に効果的ですが、他の症状にも有効であることが確認されています。
エストロゲン・黄体ホルモン併用療法
エストロゲン単独での使用は子宮内膜増殖症のリスクを高めるため、子宮がある方には黄体ホルモンを併用する「エストロゲン・黄体ホルモン併用療法」が推奨されます。
エストロゲン単独療法
手術で子宮を摘出した方には黄体ホルモンの併用は不要ですので、単独で使用いたします。
HRTに使用されるホルモン剤には、飲み薬、貼り薬、塗り薬など様々なタイプがあり、投与方法も多岐にわたります。
患者さんと十分に相談しながら、適した治療法を選ぶことが重要です。
副作用について
HRTについては、一時的に乳がんなどの稀な副作用が強調されることがありましたが、最近では更年期にHRTを始めた人々が心臓や血管の病気、骨粗鬆症などの老年期に関連する疾患を予防できるという利点が再評価されています。
2.漢方薬
漢方薬は多彩な生薬の組み合わせで作られ、全体的な心と体のバランスの乱れを回復させる働きを持ちます。
様々な症状を訴える更年期女性に対しては、「婦人科三大処方」とも呼ばれる「当帰芍薬散」・「加味逍遙散」・「桂枝茯苓丸」を中心に、患者さんの症状に合わせて処方いたします。
- 当帰芍薬散
比較的体力が低下しており、冷え症で貧血傾向がある方 - 加味逍遙散
比較的体質虚弱で疲労しやすく、不安・不眠などの精神症状を訴える方 - 桂枝茯苓丸
体力中等度以上でのぼせ傾向にあり、下腹部に抵抗・圧痛を訴える方
3.向精神薬
更年期の気分の落ち込み・意欲の低下・イライラ・情緒不安定・不眠などの精神症状が最もつらい症状である場合には、抗うつ薬・抗不安薬・催眠鎮静薬などの向精神薬も用いられます。
新規抗うつ薬の「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」や「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」などは、副作用も少なく、またほてり・発汗など血管の拡張と放熱に関係する症状にも有効であることが知られています。
今の日本は、女性の平均寿命が上がってきており、90歳に近づいてきています。
更年期は人生の折り返し地点です。
この時期に起きる様々な問題をかかりつけ産婦人科医として、その後の人生を明るく幸せに過ごせるようサポートいたします。